メイキング・オブ・箱ロボまんが2009年04月22日 15:57

映画ウォーリーのDVD&ブルーレイが発売!
自分はBDの再生機を持っていないので、しばらくはガマンの子です。

■amazon.co.jpで:『ウォーリー』DVD&ブルーレイを見る

自分にとって最近の映画ソフトは特典映像ありきで、いつのまにやら主役とオマケが逆転した購買欲という、食玩と同じような状態になりつつあります。メイキング映像は自分にとって大切な主食コンテンツです。

昨年、ウォーリーのコミカライズ版をやらせていただいたご縁もあり、思い入れたっぷりの映画。反面、まんがで読む欲求はDVDまでなのだろうと予測していたので、これで一区切りという気分も感じています。 そこで今日はDVDのメイキングのパロディ的に、“まんが版”メイキングでお送りします――――。

――なぜ、この仕事を?
ドラえもんの本でお世話になった編集長の推薦で携わることになりました。現在主流のディズニーコンテンツのキャラクターの多くは“かわいい”、女性ファン中心の作品が多く、作家さんも女性を担当させるほうが似つかわしい作品が多かった中、『ウォーリー』は男性ファンが多くつきそうな作品だった点が、選んでいただいた要因のひとつのようです。 96年の『ミッキーマウス』『ドナルドダック』で既にディズニーコミックの経験があったので、即戦力的(作家オーディション、承認へのステップ、研修期間などの手順をある程度省略できる点)なところも有利だったかもしれません。

――映画『ウォーリー』の感想は?
以前から好きだったピクサーの作品だったので製作段階からチェックはしていて、楽しみにしていました。
映画はまんがのお話をいただいてから観たのですが、正直これを漫画文法に置き換えるのは厄介で、大変な仕事になると思いました。とても完成度の高い映画だと思う反面、仕事のことが頭にあって普段映画を見るスタンスとは違って心底楽しむのとは別の感覚で最初は受け取りました。
初めて観た感想

――まんがへの準備方法は?
この漫画は雑誌で2回、映画全体の半分までを消化し、後半を単行本で書き下ろすペース配分でした。
映画はまず1回素で観て、2回目はメモを取りながら観ました。雑誌連載一回目の原稿前は2回観た記憶と個人的に買い込んだ洋書、いただいたデータを参考に仕上げました。雑誌版2回目の仕上げ前にもう1回観た後は試写に出かける時間もなく、最終的には3回の鑑賞の記憶、メモが主軸になっています。

――参考文献はどんなものを?

最初に買った1冊。CGアニメではなく“手描き”のスタンスの魅力がつまったコンパクトな1冊。後にTOHO CINEMASのマガジン「T」付録で青山テルマ訳の邦訳版がリリースされました。


仕事が決まって真っ先に購入したヴィジュアル百科。美麗な図版満載でディテール確認にはもってこいの1冊。現在は邦訳版「ウォーリー完全ガイドブック 」が出ています。


いわずもがなのメイキング・アート本。製作者の意図を一番汲みやすいし、資料としても映画だけでは見えない部分まで紹介されていて世界観理解にとても役立つ1冊。こちらも邦訳版が発売中。


WALL・Eオフィシャル・ファンブック (ジス・イズ・アニメーション)
4コマ版を寄稿している本ですが、ゲラ(試し刷り)をいただいて、後半の仕事に大きく貢献してもらった本です。自分の漫画がお目汚しに……。

他にも多数の本を参考にしましたが、メインで使ったのは上記のものです。
また、コミカライズするのならDVDが事前にもらえたりしそうですが一切そういうことはありません。試写は撮影も録音も普通の劇場と同じく厳禁。メモが限界でした。

――苦労した点は?
時間です。お話をいただいたのが8月ごろ。締め切りは11月後半。最初の一ヶ月は設定などの承認などで準備期間になってしまったので実働は9・10・11の三ヶ月。
ピクサーへ承認のアートやコンテを提出してレスポンスが約2週間後。返事を待っていては間に合わないので返事を待ちながらも先回りして進める作業でした。
手始めに予告編を漫画にしてみて手慣らしをしてみましたが、映画を観る前だったので、やっぱり今見ると微妙な出来です。(※後の雑誌掲載の予告まんがとは別の未発表原稿。)
デザイン設定も自分の手の遅さ(迷い)がたたって、連載原稿と同時進行になってしまい……。
周囲の協力のおかげで完成させることが出来ました。

実のところ、もっとシンプルな線で“手描き”感を出したかったのですが、(日本での)“コミック化”に期待されることとは逆ベクトルな気がして、迷いました。

――まんがはアナログ?デジタル?
99.9%アナログです。
ほんの一部、コピー機能とトーンワークはアナログ原稿をスキャンし、加工して出力したものを貼り付けて完成原稿にしています。
日本で最初のデジタルまんがツールで描いた経験(コミック・スタジオの最初のリリース時、作例を描いた)は……今回はまるで生かせていません。orz

今回は意識的にアナログでロボットを描いて、ぬくもり感を出したかったので、あえてフリーハンドでウォーリーを描いています。
ある人に「むしろウォーリーは直線的で定規で描いて、イヴを流麗なラインにすべきなのでは?」と意見いただきました。確かに下描きまでは定規を使っても良かったかな……、とも少し思います。
監督インタビューでもウォーリーは硬そうに見えて「スクワッシュ&ストレッチ(つぶす・のばす※アメリカ・アニメの動きの基本)」をけっこう入れていると言われていたので、あながち間違ってはいないと思うのです。

もっとも、それを強調した初期原稿はグニャグニャに見えすぎて没にしました。

――気をつかった部分は?
映画のイメージを損ねず尺を短くすることに細心の注意を向けました。 前半の雑誌部分はページ数の制約でかなり寸詰まりになっているので、伏線すらもカットしている場合があります。これは雑誌では最後までストーリーが公開されないので逆手に取った構成です。カットした伏線は単行本で戻しました。
雑誌ではページ順序も入れ替えてウォーリーの仕事に出かける回数を1度減らす構成だったのですがNGが出て、つながりが不自然になってしまいました。

単行本では地球とアクシオムで呼応する伏線を重要とし、アクシオム内での呼応する複線は1度に統合し省略するようにして収めています。 手伝っていただいた先輩まんが家に「映画に忠実なコミカライズだね」と驚かれましたが、大幅に変えてはOKにならないし、忠実すぎるとコミカライズとしてつまらなくなるので、小さく抵抗しています。

自分では上乗せしたつもりのディテールが、その後映画を見返したら、映画でもやっていて嬉しいやら悲しいやら。とにかく良く出来た映画だと 思わされました。

構成に基本的には悔いはないのですが、後半はスケジュール都合もあって、うっかり落としてしまったディテールが1つあります。許されるならモーの活躍を1コマ直したいです。

――後日談はコミックオリジナル?
まず映画のラストの話をしなければならないのですが、海外版の多くの出版物のラストシーンはエンドクレジット前の部分なんです。そこから先をまんがにしていいのかも判断がつきかねていたので、段階的にOKが出たらここで終わりにしようというページを3箇所つくりました。まずはウォーリーとイヴのハッピーエンドのページ。そして映画のエンドクレジットにあたる再生のストーリー、本来の映画ならばその後「BnL」社のロゴ……となるわけです。

大人の観客としてBnLのロゴはブラックユーモアを含んでいて面白いとは思うのですが、メインターゲットとして子供の読者を想定したときには不釣合いだと判断しました。
実のところ映画のあのオチは「ニュー・シネマ・パラダイス」が大好きな監督らしいダブル・ミーニングだと思っていて好きなジョークです。「BnL」は「Buy'n Large(いっぱい買ってね)」の頭文字ですが、同時に「by and large(だいたい、どんぶり勘定)」との掛詞。大量消費社会への警告みたいな大きなテーマを扱っていそうに見えて“ま、その辺は適当に”と言ってるようにも聞こえるという二重構造的なオチ。深く考えるか“だいたいOK”と軽く捉えるかは観客次第と言うところがニクイ。

ところがこのオチ、まんがには向きません。そもそも英語の掛詞なんだから使えるはずもなく……。

そこで考えたのはエンドクレジットで後日談がはっきりしないゴキブリのハルの物語を付け加えることでした。ブラックユーモアながらほほえましいテイストなら、映画のイメージを損ねず“映画とは別”のコミカライズなりの読後感を残せると思ったのです。
これが用意した3段階目のラストです。
正直、それまでの小さいアレンジ比べてキャラクターに後日談を加えるのはNGの可能性が高いと思ったのですが、意外やピクサーさんの大英断で自分の思い描いた形で締めくくれました。本当に感謝です。

小さいことですが最終コマの足元の線はハルの子孫たちの触覚です。最初は描き入れてなかったのですが、ドタンバでいや~な絵になると思いつき、嬉々として足しました。

――最後にひとこと。
反省点はいっぱいの作品ですが、ある程度のボリュームを完成できたことに喜びを感じています。
機会ありましたら、またチャレンジさせていただきたい仕事です。



[※2009/07/13画像追加]

コメント

_ LOU ― 2009年04月23日 21:18

いやー、本当にお疲れさまでした!
でも素晴らしいコミカライズだったと思います。
またのチャンスがある事を、楽しみにしております。

>ドタンバでいや~な絵になると思いついて嬉々として足しました。

見直してみました。
本当、嫌~な絵(笑)!!

_ しらいしろう ― 2009年04月25日 20:33

どうもありがとうございます。m(__)m
普通の映画ならばもっと脱線したコミカライズの方が期待されるのでしょうけど、ディズニー映画ですからね。
懲りずに、またの機会の時にもお目通し頂ければ幸いです。

ゴキ、苦手な自分ですがハルはキャラクターとして愛嬌あるヤツですよね。
…群れたら勘弁ですが。

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