『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』鑑賞2008年06月30日 23:58

アウェイ・フロム・ハー 君を想う / 小型チラシ(絵はがき大・三ッ折)
44年連れ添った夫婦の片方がアルツハイマーに冒され、自ら介護施設に入ることを決意。連れ合いのことを思い出せなくなるだけでなく施設で出会った異性を夫婦のように思ってしまうよう。その時、残された連れ合いはどうすればいいのか。そのカップルを祝福することができるだろうか。

評判を耳にし、是非とも観たいと思った作品ですが、上映期間が残り少ないと知り、あわてて鑑賞してきました。事前にあまり調べずに観たせいもあって、この作品の監督が20代ということにまず驚きました。

究極の選択で展開される数々の難題。そのシチュエーションをあくまでも落ち着いた視点で、淡々と見つめる演出。カナダの大自然も美しいし、病院に差し込む自然光も残酷なまでに静かに美しい。そのムードは円熟した年齢の人間の感性によるものだと感じさせれられました。

そういえば20代で『ニュー・シネマ・パラダイス』を監督したGトルナトーレは若さを驚かれるだけでなく“若いのに、あんな人生の機微を分かっちゃダメ”という非難までも呼びました。今回はそういう言葉は出ていないようですが、監督のサラ・ポーリーに対して若干ジェラシーを覚え、そんな気分にさせられる部分もあります。若いということは、それだけ不利な場合もあるのですね。

老婦人役はジュリー・クリスティー。老いても透き通るような美しさを保つ彼女の容姿に、それまでの活躍に馴染みのなかった自分は驚きました。また女優業を休業していた彼女が今回の作品の為に復帰したと言う逸話も、だてではないと思える演技の繊細さ。思い出の場所を通過する時の何かを思い出しそうで、思い出さない一瞬の表情。胸に強くつきささりました。

無償の愛を注ぐ旦那役のゴードン・ピンセントもかっこよかった。彼女を深く愛し、離れるだけでも痛々しい彼。妻の回復を思い日参するが職員と勘違いされ、それだけでなく別の男をかいがいしく面倒みる妻を見せ付けられる悲劇。その様子を離れたところから見守る強さ。激することなく、若い時の代償ではないかと痛みを自分の中で消化しようとする表情。彼女を愛する一方で、裏腹な感情が沸く人間の不条理さ。人生の光と影を考えさせられるキャラクターを十二分に表現されていました。

誰しも訪れる可能性のある物語として引き込まれ、万が一自分が似た境遇に陥ったら……その時、どう対応することができるか。深く考えさせられる映画でした。