「孤独な聖母マリア」と「グランドゥカの聖母子像」ともうひとつ ― 2010年07月29日 21:51
先ごろ発刊された第5巻で無事全集の刊行を終えた『エスパー魔美』もまた、自分にとっては久々に熟読した作品です。シリーズ終盤は作者の美術、芸術感への考えがテーマになる作品が多く見られます。中でも面白かったのは「感動しない名画?」です。
この作品では、ラファエルの「孤独な聖母マリア」という作中絵画が登場します。ラファエルなのはラファエロの誤植ではなくて、ラファエロとは違う架空のものだということで、作者ともども「孤独な聖母マリア」なる絵は実在しません。
これは、言うまでもなくラファエロの「グランドゥカの聖母子」を基にしたパロディに見えます。
ラファエロ【グランドゥカの聖母子~Madonna&Child~】1504年
元になった絵画ではいたはずの子供を抱いていないのだから“孤独”なのだと、納得させられるお遊び。そう簡単に思ってしまうのも良いでしょう。しかし、「孤独な聖母」にはもう一つの絵が重ねられています。
それは名画の代名詞とも言える、世界一有名な絵画です。
レオナルド・ダ・ヴィンチ【モナリザ~Monnalisa~】1503年~
漫画に登場する「孤独な聖母マリア」のポーズやレイアウトに関してはモナリザを下敷きにしています。手の重ね方などを見れば特に分かりやすいでしょう。
ラファエロはダヴィンチと同時代に生き、強く影響を受けた作家。その才能に歩み寄るべく同じモチーフで絵を描くこともありました。
「感動しない名画?」では、そっくりに贋作する技量があっても、最終的に絵の良さは再現できないことを見事、描いています。その苦悩が語られる終盤は、ミステリーの謎解きのように流すこともできますが、情熱を汲み取れなくもありません。彼は間違った道を歩んではいるものの、才能に素直に嫉妬し、挑戦したのです。
その贋作元が既にダブル・ミーニングのようにダヴィンチとラファエルの関係性を投影させたコラージュ的作品だったというカラクリ! 藤子・F・不二雄が仕掛けた名画への憧れと、その足元に及ぼうとするドラマ。
入れ子構造のお遊びはまさに藤子節。舌を巻く仕掛けでした。
名画が日本へ来ると、人ごみの中で前の人の頭の隙間からチラとしか見られない状況を揶揄。それらの人々が絵を見に来るのではなく“イベント参加者”でしかないように描いているのも印象的です。
シリーズ中、幾度となく“芸術とは”を描いた『エスパー魔美』ですが、シリーズ終盤で改めて“絵画とは何か”を描こうとした「感動しない名画」は、仕掛けたっぷりの“名画”なのではないかと思ったしだいです。
コメント
_ しらいしろう ― 2010年09月03日 05:11
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ずいぶん時間がたちましたが、これもやっと公開モード。
もはや、みんなの心は2期だっつーの。