ディズニーアート展へ ― 2006年07月20日 18:11

オリジナルの催事を再現するべく準備が進められ、新たにディズニー本社からの貸し出し作品を加えてまれに見る大型展示となりました。
◆ディズニーアート展公式HP: http://www.disney.co.jp/disneyart/
初日には宣伝番組をかねた特集番組がNTV系で放送されたのですが、いかにも日本テレビらしい展開で、宮崎駿監督や高畑勲監督も当時足を運んでいて影響を受けたかもしれないという触れ込み。
「それぞれのクリエイターには尊敬の念が消えません」
と、奥歯に何かを挟んだ宮崎駿監督のコメントにはニヤニヤさせられてしまうものでした。

影響を受けた作品(好きな作品だったか。)を聞かれて、『メロディ・タイム/Melody Time(1948)』の中の「サンバは楽し/BLAME IT ON THE SAMBA」でのウォード・キンボールの仕事を挙げていました。
DVDボックス
コミカルな動きを得意としているキンボール作品を選ぶ姿は、意外な感じです。
さて、展示会場はしょっぱなに発掘された千葉大コレクションを持ってきています。250点の内、保存状態の良かった200点を展示とされていますが、それでも経年劣化はかなり見て取れて、改めてセルの保存は難しいと思う状態でした。(海外アニメーション雑誌に普通に修復屋の広告があるのも頷けます。)
ここにもあって、他でも時折見かけるのですが絵のある部分だけを切り取ってしまってるセルはどういう意図であの状態になってしまっているのでしょう……。
本社にもない品として特筆されている世界最初のフルカラー・アニメーション「花と木」のセル! ……は、むしろ拍子抜けの小ささに、彩色の大雑把さ(汗)。
やっぱり、自分にとってはペンシルとストーリースケッチの方が素直に感動できました。特に好きな作品は別格の興奮があります。

新聞の記事の時から楽しみにしていた『わんわん物語』のストーリー・スケッチ!これでしょう、と近寄ってみるとTV放送のメイキング番組用に新たに描き下ろされたものと判明。えぇえぇえぇえぇ~!?。
同時代の別バージョンという意味で本物だし、貴重なんですが製作過程で実際に使われていたものを想像していたのでちょっと力みすぎました。でも、絵のクオリティは再生産とは思えない軽快さ。描線と彩色の走り方がとても良かったです。
コンセプトアートの名手として紹介されるメアリー・ブレア作品群。『ピーターパン』『ふしぎの国のアリス』などが紹介されていました。
以前から洋書のディズニー関連のアート本で見かける人ですが、この規模は初体験。時代が一周して今風(正確には今、流行っているレトロ)になっているのが興味深いです。時代を越えた色使いの巧みさに感心させられました。
そして”これでもか”と言うほどの作品点数を備えた『眠れる森の美女』にまつわる作品群! それもそのはず、オリジナルの展示は当時の最新作であるこの作品のプロモーションもかねていたのだから。

……この作品絵は素敵だけど内容は苦手なんだよなぁ。(ヲイ!)
当時、ディズニーランドのオープンにあわせて製作されていたこの作品、迷走をきわめて何度も監督が変わり、製作期間は予定オーバー。今で言うメディアミックスの一種なのでしょうが本場カルフォルニアのディズニーランドに建造されたお城は『眠れる森の美女』の城です(日本はシンデレラ城)。結局、映画が公開されたのはディズニーランドのオープンの4年後、テーマパークのお城は4年間、誰も知らない映画の城でした。
直線で構成された背景とキャラクターは様式美といえる美しさ。(そこは否定しません)しかし、絵だけの魅力で押し切られ肝心の”語り”の完成度が足りないように感じます。
ウォルトの傲慢さにスタッフは振り回されて、70mm超大作の器だけがあるような印象。正直、『ファンタジア』のように芸術性重視で話の中身は二の次、テーマパークに気を移してたんでしょ、と。
後のアニメスタッフに任せる比重が多くなった作品の方がこの作品よりも親しみやすいと考える自分は、いわく苦手の一本なのです。
絵の完成度に圧倒と言う意味では常に圧倒されっぱなしの展示作品。うーん、これで作品に思い入れがあれば200%楽しめるのですが……。純粋に絵として鑑賞でした。
展示コーナーでもっとも思い入れあるブースと言えば、やはり伝説の9人のアニメーター『ナイン・オールドメン』を紹介するコーナーでしょうか。
時のアメリカ大統領フランクリンD.ルーズヴェルトが最高裁判所を「9人の老人」と呼んだのに由来し、ウォルトが自社の重鎮アニメーターを仕事への尊敬を込め、洒落てそう呼びました。
”ナイン・オールドメン”9人の中でも、ご存命のオリー・ジョンストン、近年までご存命だったフランク・トーマス、ウォード・キンボール、マーク・デービス などは作家性に触れる情報に恵まれていました。(特にフランク・アンド・オリー公式HPの仕事紹介ページは簡潔ながら、さすが当事者という良い資料です。)
◆アマゾン(洋書)”Walt Disney's Nine Old Men
※米Amazonでは中身を少し確認できます。↓ http://www.amazon.com/gp/reader/0786864966/103-3023164-1631057
◆アマゾン(ビデオ)
ドキュメンタリー映画『フランクとオリー
◆『フランクとオリー』公式HP: http://www.frankandollie.com/
しかし、展示作品のセレクトには疑問が残る作品も少なくありませんでした。今回の展示はジブリ・スタッフが出向いて貸し出し作品をセレクト。そんな売りからして相当こちらの意向を反映していると思っていたのに、1997年4月15日から東京ディズニーランドの中のディズニーギャラリーで展示された『ディズニー・アニメーション・マジック~魔法の王国へのひらめき』で見た作品がかなり再上陸していました。
選ばれる名作は常に同じなのか、それともディズニー・アニメーション・リサーチ・ライブラリーのお勧めセットAなのか……。安心して見れる作品も多いのですが自分がもう一度見たいと思う作品に限って来てなかったり。
しかし、作家性を伝えるのがメインのはずの”ナイン・オールドメン”の作品セレクトはこれでよかったのでしょうか。中には中割りみたいな角度の絵(特にレス・クラークのピノキオは、それでいいの?)が、よりによってメインとして展示。作家が可哀そうに思えました。
キャラクターも複数人で担当しているものより、キーアニメーター対応、なるべく単独に近いキャラクターを選ぶ方が誤解が少なくていいと思うのですが。それが日本と違ってキャラクターでアニメーターを分けている利点であり個性でもあるので、分かりやすく伝える手にもなると思います。
範囲を『眠れる森の美女』までに限定してしまったために選定の首を絞めていないか心配です。そのわりには製作風景写真は後年のもあるし……。
おっと、セレクションに不満はあれど作品に不満はありません。
特に監督業ばかりの印象だったウルフ・ガングライザーマンの動画の手腕、その迷わないダイナミックな線さばき、のびやかさを再発見できたし、繊細な印象が強かったミルト・カールの絵がワイルドさも併せ持っているとか、生ならではの迫力と発見に満ちています。これだけの興奮はン十年に一度の展示でしょうから、じじっくり何度も噛みしめたいものです。

▲うっとり見つめるアリス『不思議の国のアリス』by ミルト・カール
(このポストカードはTDL商品で今回の展示会のものではありません。)
その興奮は会場を後にしても尾を引き、家に帰ってからは目録を眺めため息をつき、自分の持っていた洋書を引っ張り出して見比べては感心したりと、なかなか寝付けないほどでした。
会期中にまだ何度か行きたいなぁ。
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