『ロジャーラビット』にトムとジェリーが出ない本当の理由は?2008年10月12日 08:27

ロジャーラビットとミッキーマウス&バックスバニー
ネット時代になって顕著に感じるようになったのが、“誤った情報がいつの間にか定説になってる”こと。ネットで調べただけで終わらせるのは、物書きとしては特に危険です。

ちょっとケースは違うかもしれませんが、以前から気になっているひとつのケースがあります。
映画『ロジャーラビット』は有名なアニメーションキャラクターが大集合するお祭りアニメですが、トムとジェリーは出てきません。リアルタイムで当時を通過していればどういう経緯で断念されたか知っていてしかるべき部分だと思うのですが、最近はなぜかこんな説が主流のようです。
言葉を話さなずジェスチャーで感情を表すキャラクターなので、そぐわないと思われ割愛された。
ハァ? って思いませんか。でも、異論を唱えている人は少ないようです。そもそも、この説の源流は公開当時のパンフレットに寄せられた手塚治虫御大の寄稿に端を発しているようです。
<前略>その理由はいろいろありますが、最大の壁は、そのアニメの主人公達についている権利の問題です。<中略>MGMからはドルーピィという犬のキャラを借りました。ここのトップスターであるおなじみのトムとジェリーは、いっさいのセリフがしゃべれないということで、この映画には使わないことになりました。<後略>
約3ページにもわたる解説は詳しく、さすが作品世界の時代を通過したプロのものと感心させれれます。ずいぶん勉強にも役立った解説文でした。

しかし、ことトムとジェリーにいたってはこの“説明”がいつの間にか“ファンの常識”に昇華してしまったようです。
説といっても、オフィシャルであることに違いはないと思います。関係者にも通じ、情報を得ているであろう氏の原稿が、事実無根の憶測で書かれているとは思えません。おそらく伝聞であったとしても関係者の誰かから聞いた話であろうと思います。

実際、この映画で扱ってるキャラクターは多岐にわたり、契約の細かさは作品にも表れています。主人公の探偵バリアントが落下中に遭遇するミッキーマウスとバックス・バニー。ビックネームの2人ですが、出番はわりと短いものです。これはバックス・バニーの版元であるワーナーブラザースが、自社の看板キャラクターがミッキーマウスの格下扱いになることを危惧し、出演時間はミッキーマウスと同時間、同コマ数になることを望んだ結果です。なるほど、2人の出演は必ず同じフレームに収まっていて、完全に同じタイムだと分かります。

これだけ細かな交渉が行われている中で「トムとジェリー」の出演拒否がそんなに簡単な理由であると納得できるでしょうか。そもそもセリフのないキャラクターも多数出演しているのに、トムとジェリーだけがその理由というのが納得できません。それじゃ版元からの拒否ではなく、ロジャーの作り手が拒否したという点からして矛盾しています。

公開当時の別の記事では、きちんと報道されていました。
50周年記念作品の長編映画を製作中なので「トムとジェリー」を貸し出すことはできないが、かわりにドルーピーを貸し出すことが許された。
(※出典の出版物を捜索中ですが見つからないので、記憶で書いています。出典が分かる方、ご一報を!)

トムとジェリーのデビューは1940年。50周年を迎える1990年は『ロジャーラビット』の公開年1988年の2年後。時勢もまったく無理が無い。
ところがこの年に公開された長編映画の『トムとジェリー』は存在しません。
事実上、初の長編映画になる『トムとジェリーの大冒険』は1992年作品。遅れに遅れての完成だったようです。
そういえばフィグおばさんはモロに『リトル・マーメイド』のアースラの影響がでている。製作準備は『リトル・マーメイド(1989)』のヒットの真っ只中に感じます。(ちなみに準備中のデザインでは『101わんちゃん』のジャスパーとホーレスを思わせる悪党、クルエラの車の影響が強く感じられる点からもディズニー作品の影響は大きいようです。)

だとしたら手塚先生が実際のところを聞くことが出来なかったのも納得です。つまり他社の企画製作中のアニメの情報をディズニー社の人間は漏洩させることが出来ない。ならば、何であれ理由をつけて説明してしまったほうが早い。つまり、表向きの回答だったであろうと分かります。手塚先生、決してウソを言ってない。
(もうひとつの可能性は手塚先生は真実を知っていて、表向きに説明をサラリと流してしまったのかも。)

でも、その作品『トムとジェリーの大冒険』が公開され、理由を隠す必要の無くなった今もオフィシャル情報として主流になっているのはいささか疑問を感じます。だって、しゃべれないのを理由にしたらロードランナーもコヨーテも……その他たくさんのキャラクターが出演できなくなってしまう。方便にしても無理がありすぎでしょう。

不思議なのは、その無理がある説明に誰も異論を唱えず、そのまま若年層のファンに情報を再生産し続けていること。
当時を通過していれば『50周年記念作品』を楽しみにしていたでしょう? 特に「トムとジェリー」ファンならさ!


[画像]落下以前のミッキーとバックスの想像画面。
ロジャーラビットは公開当時発売されたアプローズのPVC。ミッキーはプチカ「ミッキーのパイロット」(1980発売)バックスバニーはアーテル社製のミニカー(1988)。

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